掲載記事は シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。
43) 企業リスクマネジメント 第33話〜「片目をつぶれ」経営者の品格〜
一言で言うと、経営者の品格が問われる時、不祥事は起こりやすくなってきている。利益欲と正義感のバランスが崩れたときに、遅かれ早かれ事故は起きてしまうようだ。
あるメーカーの製品は、その製品に必要な強制認証を取得し市場に販売していた。
ある日、客先から同等製品を出荷するよう要求があった。どこにでもありそうな、よくあるケースである。通常、こういった場合、スペックの違いのこの製品が、取得認証範囲内かいなか認証機械に問い合わせをし、その評価によって取得によって追加認証をするか、あるいは新規で認証を取得するかと言った手順を踏むのであり、メーカーは勝手に判断してはいけない。当該製品は任意でなく強制認証の製品なので、何らかの安全商売をしないと販売することは許されない。
それなのに、そのメーカーは既に販売している認証品として販売しようとした。明かにあるまじき行為に対し、その会社の品質保証部は、現状のままでは販売できないと反発する。しかし経営側は顧客要求に応えよと認証外製品を販売させることを強要した。
結局、品質保証部長は自分自身のくびをかけて内部告発に踏み切る方法をとるしかなかった。誠に胸の痛む話であり、他人事とは思えない人も多いのではないか。
その実態を関係当局に報告された結果、当該社はその製品の販売何如かかわらず、業務を停止せざるを得なくなり、数カ月たった今も、なお再開できない状況である。またこれをきっかけに製品安全評価に需要な機能を持つ品質保証部の部長以下が退職し、会社の組織ではなりたたない状態になってしまったので、再生にもかなりエネルギーを要するのは間違いない。
私はこの品質保証部長を称賛したい。製品の安全性確保上、必要な技術基準があり、認証制度や許認可制度を介してユーザーに提供するのであって、認証行為はそれなりの理由がちゃんとあるのだ。小学生への漢字説明にも、認証の「認」の意味は”許す””はっきり見分ける”とある。少なくとも安全性が立証できない製品の品質を、合格品として販売を許すことが出来なかった品質部長は、会社の見張り役でもある当部のミッションを全うするために勇気をだして事態をデスクローズせざるを得なかった。しかも社内でもめているうちは、問題にはならないが、会社命令で販売してしまったら、そうするしか方法がなかったのだ。
そのスペックの違いが、安全性に影響するのか否かの点では恐らく大問題ではないだろうと推察する。しかし、してはいけないと分かっていながら顧客の要求に負け、経営者自らがコンプライアンスを無視している企業体質が問題なのである。それは、経営トップの考え方ひとつで会社経営を大きく危機にさらすことになる。
ちょっとした "片目をつぶれ"の指示の結果、顧客喪失、優秀な人材の喪失、業務停止による多大な損失、そしてなにより信頼の損失が経営者の経営の危機を招いてしまったと思われる。
あたかも認証品のようにごまかして販売した姑息なやり方、顧客や社会への裏切りが企イメージを著しく悪くしてしまった。会社が存続できたとしても、信用回復には、相当時間を要するであろう。存亡の危機に直面していると推察する。
利潤の追求と法令遵守は、共存しない時がある。
黄色信号を横断するか、赤信号を横断するのか、あとは実行後のリスクの大きさを判断するしかない。
会社が成り立たなければ、規則だ、法律だと、そればかり唱える余裕がなくなるのも事実だろう。しかし、どのような状況であっても、目先の誘惑に負けない強い信念をもとに、ユーザーを裏切るということにつながらないように努めなければばならない。自由社会といえども、法の下に会社は存続させてもらっていることを忘れてはならない教訓になる話だった。
