掲載記事は シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。
11) 企業リスクマネジメント 第1話 〜経営リスク・プロローグ〜
95 年の阪神大震災、予想しなかった事態が個人にふりかかった。リスクマネジメント、クライシスマネジメントといった言葉が多用され、通常の生活における「リスク」の存在を、莫大な被害を持って知ることとなった。しかし世の中には、地震のように災害のみをもたらす純粋なリスク以外の人的リスクの方が圧倒的に多く、国際化、産業構造改革、新技術開発・法改正の対応など企業を取り巻くリスクは、社会の発展に伴って、無数に、しかも見えない状態で増加している。
経営者の多くは、「経営」というリスクを座学学習からは学んでおらず、実務上の経験、早い話、痛い思いをした経験から学んでいるといって過言ではない。学生時代に経営学を学んだところで、あまり参考にはなってない。経営学専攻だから経営者になるのではなく、起業する野心と専門性があり、あるいは会社や部署を変え、実績を重ねてきたから、管理者や経営者になるのである。
しかし、経験だけでは未知の危機に対する備え(リスクコントロール)が不十分であり、管理上においても不安がつきまとう。実践に即有効な理論(学習)の必要性を、経験を重ねるにつけ誰しもそう感じるようになる。ある日突然大株主が現れ、ついには経営権まで譲るはめになってしまった大会社の経営陣の心中は、いかなるものであろう。
日本の社会構造と機関運営が、世界的に勃発するM&Aに対応しておらず、法律改正してからこのリスクに気づくのではあまりにも遅すぎる。ターゲットにされたこの会社は不幸であり、明日はわが身と身を引き締めるほかない。
このように「不測の損失」がいつ訪れるかわからない時代、自社防衛強化のために、この章からは、企業のリスクマネジメントについて紹介したい。
リスクには、災害系純粋リスクとビジネスリスクといわれる投機的リスク、つまり、損失の機会と利得の機会とが同時にかつ対極的であるリスクがあり、企業が日々直面している新商品の開発、海外進出、経営の多角化、株式投資などがこれにあてはまる。
実務上は、事業を行う過程において発生する意思決定に伴う経営リスク、事故・災害リスク、一企業のコントロール外の要因における政治・経済・社会リスクに分類できる。なかでも経営リスクは、企業の活動が拡大、革新する時ほど会社に大きな影響を及ぼし、時には倒産の危機に追い込むことにもなる。
日本で製造物責任(PL)法が施行されたのは1995年7月1日であった。これは製品の欠陥が原因で、人の身体や財産に被害が発生した場合におけるメーカー等の損害賠償責任を定めたものである。またPL法では、「欠陥」とは「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いている」とし、「安全性を欠いていれば欠陥である」と考えている。
他人の事として思えないのが、1995年に起ったアメリカ大手化学メーカー、ダウ・コーニング社が豊胸手術用シリコン充填剤の欠陥で倒産してしまった話。
同社は業界最大手で、1964年から75万人分のシリコンを販売していたが、手術を受けた女性から、この袋が破れて体内に漏れ自己免疫疾患等の病気になったという被害が40万人以上にもなり、同社に1万9000件もの訴訟が提訴された。当時の年間売上高22億ドルに匹敵する和解金を拠出したが全く足りず、連邦破産法11条の適用を受け倒産してしまった。ダウ社には8000種類の製品があり、問題のシリコンは、売上高の1%にも満たなかったという。売上高22億ドル、従業員8300人のビッグカンパニーでも倒産してしまうPL訴訟は、会社にとって巨大なリスクであり、アメリカの話ではなくなってきている。
以前のような「過失」か否かで判断される民法上の不法行為責任とは明らかに異なる。
それは被害者保護が基本であり、製造者の「過失」ではなく「欠陥」が問題だからである。
(05年3月23日掲載記事)
