掲載記事は シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。
12) 企業リスクマネジメント 第2話 〜想定の範囲内ですか〜
リスクのない環境などない。何もしなくても見舞われてしまう地震、台風、噴火のような自然災害もあれば、リスクが顕在化したときに発生する火災、爆発、自動車事故といった純粋リスクに見舞われることもある。
一方、投機的リスクといわれるビジネスリスクは、わかりやすい例では株式投資などがあげられるが、いわゆる利潤追求するための行為は、条件が変われば「不測の損失」を生むことになる。リスクとは、損害を被る可能性だけでなく勝利のチャンスを含んだ冒険という意味もある。
つまり、リスクとチャンスは表裏一体であり、ビジネスは冒険、それがビジネスの醍醐味であると私は思う。しかしながらひとつ間違えると、Y社のように永い歴史の超一流企業ですら、一夜にして本末転倒になる。
企業は常に社員の不祥事で、あるいは製品不良で、あるいは契約上のトラブルで、いつ「損失」が発生するかわからない状況におかれている。しかしこれらは、労務リスク、PLリスク、法務リスクをコントロールすることで、「不測の損失」を最小限に抑えることができ、偶発的に発生するものではなく、理論的に「予測」できるものになる。「想定の範囲内です」と落ち着いて言える為には、企業は事業リスク管理人材(CRO,リスクマネージャー)を養成し、実務ベースでリスクマネージメントをする必要がある。
米国では、全米トップ500社の98%はリスクマネージャーを設置しているものの、日本では60%にとどまり、しかも1%の企業しかリスク管理に金融手法を活用していないなど、十分な形で導入されていないそうだ。企業戦略や意思決定において大変重要であるリスクマネージメント、ある2つの会社の、「想定の範囲」がくるってしまった例をご紹介しよう。
A会社は、外国企業の日本のディーラーとして、日本市場の独占契約を持っていた。この外国企業が日本市場へ新規参入する頃は、日本法人を創るほど市場への興味はないと判断し、A社と契約することで日本顧客にサービスを提供していた。
しかし、日本の法律改正によりグローバル化が可能となりこの外国企業にとって重要な市場へと変っていった。まずこれがポジティブな「想定の範囲外」。これにより、両者はより一層の強力な関係を構築することで同意し、実務上A社が約1年かけて体制を構築した。協力関係は互いの市場と顧客へのサービスソースを確保することであった。
A社による体制構築終了後、いきなり外国企業はM&Aをかけてきた。これはA社の経営者にとって、ある程度「想定の範囲内」であったので、用意していた応分の株式譲渡を提案したが、この外国企業は、A社にとってとてものめない条件で完全買収を求めてきた。A社がそれを断ったところ、不当な理由で一方的に独占契約を解除し、それどころか顧客に対し、A社の不利益となる手紙を送り、契約違反である直接取引を要求した。
外国企業との付き合いに慣れているはずのA社にとっても、この展開は全くのネガティブな「想定の範囲外」であった。A社は協力関係が大きく崩れ、体制の再構築を余儀なくされたが、結果的によりよいシステムを構築することができ、独自展開で新事業を完成し、市場を押さえることが出来た。
一方、外国企業はというと、勇み足で不当に関係を切ったことで、日本のパートナーを失くし、市場を失くし、訴訟を起こされ、関係者はクビになってしまった。
A社は、法改正という政治リスクと外国企業との独占契約に伴う国際・法務リスクを身をもって知ることで、経営リスク回避方策の大きな勉強をしたわけだが、また発生するかもしれない不測の事態に対し、いかに現状を早く復帰させ、事業の安定と成長につなげていくか、今後の永遠の課題となるであろう。
(05年4月27日掲載記事)
