掲載記事は シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。

グローバル時代の生き残り戦略

13) 企業リスクマネジメント
  第3話 〜気づいていないこと自体が大きなリスクである〜

企業というものは、冒険的事業体であり、宝の山を求めて航海に出た船のようである

暗礁や荒波を乗り越えて安全航海をしなければ、転覆し命取りになる恐れがある。転覆しないように海図や気象情報の入手、船舶の安全性を確認して出航しても、大海原の長い航海には潜在的危険があり、見える危険は氷山の一角でしかない。天気予報が「晴れ」と予報しても「雨」の日があるように、“絶対”ということはない。

まず管理者は(先のことはわからない)経営や事業が不確実性を有していると認識することが必要であり、これがリスクマネージメントの第一歩である。毎日機械を作動するオペレーターは、この機械のこの部分が危険だとか、この作業手順は複雑で間違えそうだとか、人手不足で残業が続くといった、現場社員としてヒヤッとした事実を知っているはずである。

また、クレーム処理担当は、顧客からのクレームをいやな仕事と思いつつ謝罪に明け暮れ、顧客が製品やサービスのリスクを指摘し、会社の為に提言してくれていると思っていなかったりする。また人事担当は、社員の不正やセクハラ行為を上部にあげず、出来れば部署内で解決しようとする。

要は、トップは会社の現場の事情を知らないことが多く、ヒヤリとすることがほとんどないのである。気がついた時には、ヒューマンエラーによる怪我や死亡を招いたり、消費者に損害訴訟を起こされたり、社員に労働争議を起こされたり手遅れの場合が多い。最近の多数の死傷者を出した鉄道事故が良い例である。ATSの導入の必要性、導入時期、現状におけるリスク分析結果などの稟議を、安全管理部門責任者が社長に上げない限り、トップは現在会社が危険な状態であることに気づかないことが多い。

企業の組織が大きくなればなのるほど構造が複雑になり、独立した形態に近い組織が複数できることがある。事業本部制がそれで、独立採算で費用と利益を各本部で計算し、その結果企業全体で高収益を確保しようというやり方である。

しかしコスト管理において、リスクヘッジにかかるコストを各本部が判断する場合は、十分に注意しなければならない。マイナー商品だが、リスクが高く巨額の損失をもたらす可能性がある場合は、企業生命にかかわるので、そのリスクヘッジコストも多額になり、各事業部に負担させるには無理が生じてくる。となると、採算のためにコストを抑えようとし、リスクを残したまま、あるいは低減できないまま航海に出てしまうことになる。

リスクコストの考え方だが、従来のような各事業部によるコスト負担を改善し、各事業部にはリスクの洗い出し、分析、リスク評価をさせ、そのリスク情報を本社が一元管理し、コスト負担も含め企業全体のリスクコントロールをすることを推奨したい。本社が、事業部が持つリスクの程度に合わせてリスクコストを負担することで、徹底したリスク管理のほか、社全体にかかるリスクコストも削減できるという経費上のメリットもある。

企業リスクマネージメントの大前提はトップダウンで行うことである。リスクを分析、評価、回避し、最小限の損失に抑えることができたことを確認して、実行するという意識が大切だからである。

このような意識を社全体に浸透させるためには、役員から管理職へ、管理職から社員へとトップtoボトムで行う必要がある。これをボトムtoトップで行うと意識の低い上司に「そんなにリスキーならやめておけ」と分析評価もしないまま結論が出てしまい企業発展につながらないからである。

トップtoボトムでリスクマネージメントをする為に、社内にリスクマネージメントができる人材、リスクマネージャーを養成してはどうだろう。設計・製造・品質・サービスのほか、法務、労務、財務、社会的リスク担当が現場をよく知っているので、現存リスクを認めることができ、的確な対応と管理が可能となって、トップの良きカウンターパートナーになり得るであろう。

(05年5月31日掲載記事)