掲載記事は シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。

グローバル時代の生き残り戦略

15) 企業リスクマネジメント 第5話 〜あなたの社員は大丈夫?〜

企業は人なり− 企業は、人によって成り立っており、大小問わずいかなる企業も人によって動かされている。「人」がいかに重要か、会社を活かすも殺すも人次第であると言い切ってよい。愛社精神にあふれ、優秀で大いに働き、会社への貢献度が高い人ばかりであれば、経営者の悩みは9割方軽減されるであろう。その人を様々な理由や原因で損失してしまうと、企業経営そのものに大きな損失をもたらしてしまうであろうことは容易に想像できる。

その人の価値によって、その損失のダメージは異なり、企業にとってダメージが大きな人もいれば、さほど影響がない、或いは全く影響がない人もいるであろう。また一方では、その人の存在が企業にとってマイナスであることもある。損失のダメージよりも、潜在的な悪玉リスクの方が最もたちが悪い。

人的損失の原因はいくつかある。まず倒産、リストラ、人件費削除等による経営上の問題が原因である場合。これは、一般に会社都合といわれ、ここで考えられるリスクは人の損失によるダメージではなく、むやみに解雇してはならないという労働基準法保護のもとに起こり得る労使抗争のリスクや、職場の雰囲気の低下等である。

次に人事や給与制度、教育研修・福利厚生の制度変更や定年退職といった経営方針や戦略上の問題における自然淘汰または自発的離職の場合。また、傷病による死亡や就業不能による退職・長期欠勤といった身体上の問題や、俗に2次損失といわれる、採用後の教育研修が原因で人材の育成または確保が十分にできず後継者不在となり、将来の計画に影響を及ぼす場合。そして最後に、企業の存続、ならびに社会や取引先に及ぼす影響や打撃が最も大きく深刻な、経営者や従業員の不祥事が問題の場合である。

かつて私が製品に「絶対安全」はないと書いたように、人も「絶対」ということはない。

採用時において、必要とする技術を持っている、適任である、期待できると判断され、お見合い(面接)で契約が成立されたはずなのに、一瞬の魔がさした、悪いこととは思わなかったといった事故的不祥事を起こす人から、ちょっとしたことや人間関係トラブルで、企業に対して敵対心をもった悪玉に豹変してしまうタイプの人、計画的に私利私欲追求が目的の知能犯タイプの人がいる。そういう人間をなぜ見抜けなかったのかと、関係者は嘆くことしきりだろうが、基本的に人の心を洞察するということは限りなく難しい。1、2回の面接ではわからない、日々観察している中で兆候に気付く勘があるかどうかである。

どういうリスクがあるかというと、不正アクセスによる、企業や顧客の機密情報収集及びその漏洩、外部への販売といった背信行為が、刑事事件として最も多く検挙されている。それらは企業の信用や財産の喪失に真っ先につながり、大変な不利益をもたらす犯罪行為であるにもかかわらず、不正アクセスによる“盗み”を立証するのは大変難しいと聞く。企業が弱いのは外部からの圧力ではなく、内部の犯行であるという。

そのような悪玉は保身の為、或いは将来における己のビジネス展開の為に、その企業の基盤を弱める目的で、善意ある社員に大きく影響を及ぼし退職に導き周りを固めていく。そして人材確保ができなくなり、諸計画の中断、商談や取引の中止、後継者不在の補填の為の一時採用にかかる臨時経費の発生、そして残業強化を余儀なくされた労務管理問題の発生等、次々に連鎖喪失を蒙ることになる。

従って人のリスクは企業にとって大変大きいので、日頃から的確な対策を考えておかねばならず、管理者は五感を駆使して兆候を感じ取らなければならない。人についてはハイリスクハイリターンを考えないことが企業のためであり、人で栄えるべき企業が人で滅びてはならない。

(05年7月27日掲載記事)