掲載記事はナノテックシュピンドラー社長 シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。

グローバル時代の生き残り戦略

38) 企業リスクマネジメント 第28話〜日本の遊具は危ない〜

 昔々に小学校内にPTA費用で取り付けた遊具の修繕の時期がきた。これまでも部分的には補修をしてきている。例年の通り早速3つの業者に見積りを依頼したところ、保証ができない、専門家がいないという理由で2つの業者が断ってきた。ジェットコースター事故の直後だったせいなのか。最後の業者が現場を確認し出した答えが「これまで事故がなかったことが不思議ですね」。補修のつもりが、根本的に設計上の問題が多々あることを指摘され愕然とする。例えば、斜面にあるドラム缶を潜って下りるには急角度すぎる、滑り台のスリットに指が入り切断の恐れがあり、又マフラー等が巻きつき首吊りの恐れがある、滑り台着地後すぐにジャングルジムがあり激突の恐れがある、斜面についているタイヤ中央の穴が深すぎ骨折の恐れがある等々、いつ犠牲者を出してもおかしくない状況である。校庭内にPTAが設置した遊具で事故を起こした場合、一体誰の管理責任を問われるのか。現にこの遊具の修繕費はPTAの負担であることから考えると、PTAの責任か?いや校庭内なのだから学校、つまりは市の責任か?そんなことを考えながらも、どちらも責任は免れるものではないとして、当面当該地にブルーシートを張り安全対策に着手することにした。「安全」をライフワークにしている私にとって、放っておけない事柄である。業者の見積り提案が最善のものである保証はない。しかしながら、どこの尋ねれば専門的な回答が得られるのかわからない。幸いにも去る8月9日から、キッズデザイン博2007の開催中に"子どもたちの安全・安心なくらし~あぶない!のかがくとキッズデザイン"セミナーがあったので、遊具の安全性を我が国ではどう確保しているのか勉強の為に出かけて行った。

 公園等に設置されている遊具の監督官庁は国土交通省であり、照会される基準は建築基準法である。学校校庭内に設置されるものについては、文部科学省も監督官庁である。しかし設置の際に遊具の安全性を確認する制度はなく、定期的なインスペクション制度もない、安全設計の為の技術基準もない。本来は子供の安全確保を国が支えるべきところ、現実は何も行われていないということがわかった。よって、民間企業や行政を会員とするキッズデザイン協議会がNPOという立場で子供の為の製品安全確保を推進し、安全意識に疎い日本を目覚めさせる火付け役として存在している。

 経済産業省は8月8日を「キッズデザインの日」とした。名誉ある第1回「キッズデザイン大賞」は株式会社ジャクエツが受賞した。驚いたことは、この会社は見積りを依頼した際に危険を指摘してくれた第3の業者であったことだ。保育園を設計運営しているこの会社は、これまでの小さな子供たちの周りで起きたヒヤリハットを蓄積し、独自でリスク分析、遊具設計に活かすといった「安全な子ども環境への取り組み」が、今回の受賞理由であったそうだ。想定外だったと言い訳される事故は、蓄積データによると十分に想定範囲内の事故である。使用者である子供たちにヒアリングすると、個々に色々な危険な経験をし、また学習してそれらを回避しながら遊んでいることもわかった。

 当協議会は産業総合研究所と共にアカデミックな研究を基礎としながら、安全な遊具普及に取り組んでおり、危険な場所を安全な場所に作り変えるプロジェクトを有しているのだが、実施の為には所有者(市)に理解してもらわねばならない。行政の反応が楽しみでもある。ある事例をモデルとして市全体、及び近隣地域、ひいては日本中の子供の遊び場が科学的に検証され、先進国の名に恥じない安全な生活環境を提供できる社会になって欲しいと切望する。少子化対策も良いが、現存する子供の安全確保にも大人は目を向けるべきである。(筆者=(株)シュピンドラーアソシエイツ社長・シュピンドラー千恵子)