掲載記事は シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。
4) 使用環境をおさえよ
【リスクアセスメント実践編:ステップ1】
昨今のメーカー環境は、合理的で多様な生産形態と自動化技術の高度化とともに、雇用形態の変化、従事する労働者の高齢化・多様化の加速、といった未体験ゾーンの環境である。
こうしたシステムのもとで生産される製品は、従来型のマネジメントでは検出しきれない潜在リスクがかなり存在していると認識すべきである。最近のニュースで、ここ数年事故が続発しているように見えるが、急に安全性の質が悪くなってきたのではなく、CSR(企業の社会的責任)に対する世論の関心、情報開示やアカウンタビリティの重要性が問われ始めている昨今においては、重度、軽度にかかわらず事故が表面化しやすく、ちょっとしたことでも目立つようになってきたためであろうと推定される。
ハインリッヒの法則では1つの重大災害の水面下には、29の軽度災害、300もの“ヒヤリ”“ハッと”(した事実)があるとしている。新しいテクノロジー、新しい生産・流通形態、加えて法規制の強化、あるいは製造者責任原則の浸透など、時代は変わり、潜在リスクは限りなく拡がっているのに、設計コンセプト段階での検討内容が昔のままで良いわけがない。
そもそもリスクとは、古いイタリア語(riscure)に由来し、損害を被る可能性(-)と勝利のチャンスを含んだ冒険(+)といったふたつの意味を持っている。つまりリスクとチャンスは表裏一対でチャンスを掴む行動にはリスクを伴うということであり、これは企業として発展しようと思えば思うほど大きくなり避けられない。メーカーと話をしていて時々思うこと、それは何が一番危ないか。この会社は自分がおかれている状況に気づいていない、無防備であるということを知らない事実である。
安全に「絶対安全」はない。本質安全設計で製品の最大限の安全確保を心がけても必ずリスクは潜んいる。その残留リスクの内容を知り、リスクの程度を許容した上で製品は使われなければならない。現実的には、いいかえれば「安全」とは受け入れ不可能なリスクがないことであり、ユーザーに受け入れ可能と認められれば「安全」製品とみなすことができる。ということは、残留リスクは製造者とユーザー間で納得できるものでなければならず、コミュニケーションを図る必要性が出てくる。その際のイニシエータは製造者であるべきである。
一般消費者向けの家電製品などの取扱説明書には、実に事細かに安全のしおりと称した禁止事項が書かれている。こうするとこういうことが起きるかもしれない、よってしてはいけませんよと意図しない使用も想定して残留リスクを明らかにしている。これは製造者の使用者への残留リスクの伝達警告義務(IEC60417他)である。
ユーザーが使用前に必ず、取説を読んでいるかという議論ではない。また一般消費者向け製品はユーザーが限定できないので、あらゆる事態のリスク分析をし、責任範囲を限定した上で一方的に通知する方法になる。では機械や、その部品はどうだろう。ベンダーとユーザーの間で、製品が使用されたり組み込まれたりするその使用環境、安全要求事項などの打ち合わせを十分に行っているだろうか。
一般家電製品と違い、ユーザーが明らかである機械メーカーはリスクを特定しやすい。にもかかわらず、ユーザーとのコミュニケーションが図れず使用条件が特定できなければ、発火性、可燃性、爆発性、毒性、腐食性などを伴う最悪の使用環境及び最悪の他機種との組み合わせを考え、危険源を限定しなければならなくなり、過剰な対策をとるはめになる。
何より大切なことは、まず自分の機械がどのような環境で使われるのかを徹底したコミュニケーションを通じて客観的に知ることであり、潜在リスク程度を掌握し、製造者生命を守るための護身であることを強調したい。それは単にISO12100-1、-2(機械の安全性)やIEC61508(機能安全)などの規格要求に適合するための一行為を指すのではない。使用環境をおさえず「(普通は)・・ハズ」的発想や、ユーザーに嫌われることを恐れたイエスマンでは会社は守れない。
(04年7月21日掲載記事)
