掲載記事は シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。
40) 企業リスクマネジメント 第30話潤い〜 経営者の護身術〜
先月、5年間の戦いの幕が下りた。私が、6年前に共同出資で作った会社のドイツ人経営者が逮捕されたのだ。彼は10年前にドイツでE社という無線試験会社を起業した。
そして起業2年後、彼は、ドイツ国家と銀行に、ベンチャー企業のための財務支援制度を申請し認定を受けた。返さなくていいお金と、有利な融資を受け、社屋建設の地、無線試験に必要な高額な機器類を購入し、また助成金で従業員を雇って2年足らずで一端の会社になった。彼には、東ドイツ時代の喋報機関で培った無線技術がある。2001年、日本で無線ランやBluetoothが脚光を浴びだした頃、私は将来の電子製品無線化に伴う試験需要に応えるべく、この彼と共同経営をすることになった。ドル箱日本市場がわからないドイツ経営者と、無線評価技術を取り入れようとする日本経営者のマッチングであった。
しかし、彼は、日本で必要機器類を調達するといったわれわれの案を退け、無線の評価試験機をドイツE社から持って来て強行に置いていった。そのリース料は日本での調達よりはるかに高く、経営を圧迫するものであった。親会社からの貸与にもかかわらず利益相反と思える不当な利益を要求することに納得がいかなかった私は、数度の会議を経たものの決裂状態に至り、無報酬のまま不当に解任された。いわゆる、私は市場開拓のために利用されたお人よしだったのだ。根深い敵を作ったことを省みないE社は、鼻息荒くグループ戦略を唱え、平行して各国に拠点を作っていった。
E社はGermanyを軸としJapan、China、USA、Korea…それぞれの独立系企業なのにグループと称しながらE社の名を世界的に広めていった。まさに、順風満帆に国際社会に漕ぎ出したかのようであった。私は、不当な扱いに対し提訴し5年が経った。その間、会社は彼により強制倒産させられ、債権者も踏みにじられ、大きな損失を蒙ったが、日本の裁判所では裁ききれなかった。しかし、5年後、彼はドイツにおいて詐欺罪で立件され、有罪になったのである。彼はドイツの限定場所において調達資金や、購入機材を使用するといった条件の助成や優遇を騙し取り、日本及び他国に送り込み、しかも不当賃料まで吸い上げながら、あくまでドイツにその機材があるように見せかけ、償却をし続け税制上の優遇を受けていたのである。その結果、国家、国税局、税関、銀行を騙した重大な詐欺罪に問われ、禁固刑30年と下されたのである。不正に使った調達資金の返還及びペナルティの支払い、そして脱税していた8年間の追徴課税とそのペナルティの支払い命令は免れられない。私がたまたま、引っかかってしまった悪い例かもしれないが、どこにでもこの類のケースは潜在すると思っている。
「脚下照顧」という言葉がある。日本の禅寺の玄関に必ず挙げられている言葉で、脱いだ履き物をそろえるということだ。まず自分の足元を整えることが武道修行の心得の第一歩。そして礼を持って相手に接していれば、相手もそれに応ずるといった教え。本来武道の目的は、身を鍛え、人格を磨き、自他共栄の道を追及することであり、礼を知れば争いを未然に防ぎ、戦わずして敵を敬服させることが出来る。相手を馬鹿にしたような態度をすると相手の敵意を誘発してしまう。むやみに敵を作ると自分に跳ね返ってくる。不正を重ねた上に人を踏みにじって大きくなった会社は、大抵の場合、経営者にお金が集まる仕組みになっており、内部告発されやすい環境になる。
いわば、昨今の経営者にとって、関係者や従業員に対する礼儀こそ、最大の護身術なのである。
